随筆「海の言葉」53″COCKPIT”と”PULPIT”
“COCKPIT”と“PULPIT”
ヨットやモーターボートでは、デッキ上の「操縦席」は「コックピット」と呼びますし、船首や船尾の金属製「手すり」は「パルピット」と言います。何れも普通には聞きなれない言葉ですし、何やら語呂も似通っております。
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普通の帆船でも“COCK”と言えば、船に積んだ手漕ボートの一つでした。普通の“BOAT”の船長は“BOAT SWAIN”(現在の“BOSUN”)でありましたが、“COCK”の艇長は“COCKSWAIN”で、今では競技用ボートの「舵手」”COX“にその名が残っております。
但し“COCKPIT“は、この“COCK”とは関係が無いようです。
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「雄鶏」は、日本では「コケコッコー」と、ときをつくりますが、英語では、“COC―A—DOODLE-―DOO”と鳴くので、“COCK”と名づけられました。 「雄鶏」のように威張る者、つまり「親分」や「ボス」も“COCK”ですし、「雄鶏」の「とさか」に似たもの、例えば「鉄砲の打ち金」や水道やガスの「栓」もまた“COCK”と呼ばれます。
“PIT”は、そもそもは「穴」「くぼみ」のことだったのですが、「採掘坑」や「囲った場所」を指すようになります。カーレースでの給油や修繕のステーションも“PIT”と呼ばれます。
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“COCKPIT”の原意は「斗鶏場」だったのですが、意味が広がって「戦場」を指すようになりなした。
帆船では“COCKPIT”と言えば、下層甲板の船尾の部分を指しました。ここは日常は“MIDSHIPMAN”「士官候補生」の居住区であり、戦闘の時には負傷者の処置室として使われました。トラファルガル海戦でネルソン提督が息を引き取ったのは、旗艦ビクトリー号の“COCKPIT” だったのです。
この“COCKPIT”が、血気盛んな若者たちの「斗鶏場」だったのか、それとも死傷者の横たわる「戦場」だったのか、いろいろと思いをそそる名称はあります。
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英語では、馬車や帆船の時代から宇宙船に至るまで、一貫した名称が使われている例が多いのですが、現在の“COCKPIT”は「候補生室」とは全く無関係な新造語のようです。
飛行が、発明された頃、無蓋の「操縦席」が「鶏カゴ」に似ていたからか、”COCKPIT”と名付けられました。その後、レーシングカーや、ジェット機、宇宙船に至るまで、この名称が受け継がれております。
厳密に定義をすれば、ヨットやモーターボートの“COCKPIT”は、
「座席」ではなくて、デッキの”WELL”つまり「凹んだ場所」だと言います。それならば、”PIT”の原意「くぼみ」が生きております。
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さて、”PULPIT”の方ですが、これは語源がラテン語で“PLATFORM”を意味する言葉で、英語では教会の「説教壇」を指します。
海洋小説の古典、メルヴィルの「白鯨」に、牧師が“PULPIT”から熱烈な説教をする場面がありますが、これはこの牧師が曽て捕鯨船乗りであり、捕鯨船では「もり撃ち台」を“PULPIT”と呼ぶことにからめた寓話であります。
勿論、「説教壇」には「手すり」が付きものですから、「手すり」を“PULPIT”
と呼ぶのでしょうが、おもしろいことに、英国では飛行機の“COCKPIT”
を俗に“PULPIT“とも呼ぶそうです。