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EYC通信 #30

随筆「海の言葉」㉕”TRAVERSE”

“TRAVERSE”

「トラバース」は登山用語です。岩場や斜面を「横切る」ことで、ピッタリした日本語が無いためか、登山家たちは英語をそのままに借用しております。よく似た言葉ですが、“TRANSVERSE”とは混同しないでください。“TRANSVERSE”はラテン語系の言葉で、数学の「横軸」、構造物の「横断面」などです。船の「横隔壁」TRANSVERSE BULKHEAD”と呼ばれます。

本題の“TRAVERSE”は生粋の英語で、動詞としては「横切る」、名詞としては「横断」です。大砲を「旋回」させるのも、磁石の針が「振れる」のも、馬が「横歩き」するのも、みな“TRAVERSE”です。法律用語としては「否認」したり、「抗弁」することであり、日常語としては、他人の意見などに「反対」や「邪魔」することです。

帆船では、横帆を張るための“YARD”「帆桁」は普段は船の横方向に吊られていますが、風上に向かって切り上がろうとする時には、出来るだけ船首尾線に近くまで引き込みます。これも“TRAVERSE”と言います。したがって、風上に切り上がりながら「ジグザグ」に帆走することを、“TRAVERSE SAILING”と呼びます。日本の法律用語での「縫航」がこれです。

”TRAVERSE BOARD”は、帆船時代に用いられた壁掛け型の航海記録盤です。一つには羅針盤の、もう一つには碁盤のような絵が書いてあります。絵の中には、たくさんの針穴があり、紐付の釘が差し込めるようになっております。4時間の航海当直の間に、当直員は30分毎の船の進行方位と速力を記録しなければなりません。紙か黒板に書いておけばよいのですが、何分当時の船乗りは、自分の名前すら書けないものが多かったので、この記録盤上の穴に、釘を差し込んで記録させたのです。

羅針盤の絵の針穴は、八つの同心円の形にあけられております。一番内側の円周が第一回目、一番外側が第八回目の方位を示します。コンパスの針を見て、記録盤の絵の上の同じ位置に釘を差し込めば良いのです。速力記録は碁盤の目を使います。最上段が第一回目、最下段が第八回目で、左右に並ぶ穴は速力を表します。当直終了時に、当直士官が、八本の方位釘と、八本の速力釘を読み取り、航海日誌に書きうつします。子供のオモチャみたいな道具ではありますが、極めて簡単で実際的な仕組みであったと申せましょう。

航海術の発達とともに、“TRAVERSE TABLE”「トラバース表」なるものが作成され、今日でも使用されております。これは、船が方位何度で何里走ったならば、東西に何里、南北に何里移動するかを示す数表で、要するに三角関数表を実用的に書き換えたものです。この程度なら、関数電卓を使って「計算」すればよいと思うのですが、やはり航海術は「学」ではなく、「術」であるので、「計算」よりも「表をひく」方が、より実際的であるのかもしれません。

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