随筆「海の言葉」㉗”結び”
「結び」
“KNOT”とは、実際にどんなものでしょう。英和辞典によれば“KNOT”は「結び」「結び目」「結節」とあります。これではどうも分かりにくいし、必ずしも正確とは言えません。
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「結ぶ」と言えば、普通は「本結び」とか「ちょう結び」などのように、二本の紐を「結び合わせる」ことを思い浮かべます。しかし、よく考えてみると、「ネクタイを結ぶ」ように、一本の紐を自分自身と「結ぶ」場合もありますし、裁縫の糸の端に「玉をつくる」ように、単に「結び目」を作る目的で「結ぶ」こともあります。
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日常英語で「結ぶ」は“TIE”であり、“KNOT”ですが、船乗りは“BEND”とか“HITCH”とかをよく使います。“BEND”は、「曲げる」ことで、ロープをまげて結ぶことから出た言葉でしょう。“HITHC”は、元来は「引っ掛ける」「ぐいと引く」ことですが、実際には“BEND”と全く同じように使われます。従って、「結び方」の名前も、三種類に分かれます。
1.“—KNOT” [例]“BOWLINE KNOT”「もやい結び」
2.“—BEND” [例]“SHEET BEND”「つなぎ結び」
3.“—HITCH“ [例]“CLOVE HITCH”「巻き結び」
但しこれは単に名付け方の違いだけで、本質的な差はありません。これらの「結び方」に共通したことは、何れもロープを「あるがままの姿」で結ぶことで、「結び」を解けばロープは元のロープに戻る、換言すれば、「一時的」な結びであることです。
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この様な「一時的」な結びではなく、いわば「永久的」な結びもあります。これは、ロープの「撚り」を部分的に「解きほぐし」て、「再び組み合わせる」ものです。ロープ本来の姿を崩すのですから、結びを解いても元のロープには戻りません。その代表的なものが“SPLICE”です。例えば“SHORT SPLICE”とか“LONG SPLICE”の場合、二本のロープの端の「撚り」を解きほぐし、互いに相手方の「撚り」の間に組み込んで一本のロープになるようにつなぎ合わせます。「結び目」はつきません。これは「組継ぎ」と訳されております。
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ロープの端や中間に、「こぶ」を作る目的で「組み込み」をすることがあります。これが本来の意味での“KNOT”で、“WALL KNOT“のごとく“—KNOT”の名称がつけられております。“LOG LINE”の“KNOT”は、細いロープを“LOG LINE”に組み込んで目印にします。この様に、“KNOT”は本来は「こぶ」の事だったのですが、今では“SPLICE”も含めた「結び」全体の名称にもなっております。
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余談でありますが、船乗りの間の俗語では、「結婚する」ことを“GET SPLICED”とか、“GET HITCHED”とか言うそうです。何れも実感のこもった表現ではありますが SPLICE”と“HITCH”で微妙な差異があるのかどうかよく判りません。