随筆「海の言葉」㉛“CHARTER PARTY”
“CHARTER PARTY”
「チャーター」は、もう日本語になりかけております。乗り物などを「借り」たり、「雇う」時に使います。この“CHARTER”は、海運用語で、昔は「傭船」今では「用船」と訳されます。簡単に言えば、船の「貸し借り」だと理解されておりますが、本質的にはそんな単純なものではなく、歴史的な背景と長い間の習慣に従った複雑な意味を持つもので、日本語に翻訳することが出来ないような内容を含んでいるのです。
⚓
無理を承知で簡単に言うと“CHARTER”には三種類あります。第一は“VOYAGE CHARTER”。これは「航海用船」と訳され、「運送契約」であります。第二は“TIME CHARTER”で、普通は「定期用船」と訳されますが、「期間用船」の方が適切でしょう。「船舶賃貸借」と「労務提供」の混合契約であるとの判例もありますが、「運送契約」であるとの解釈が強いのです。第三は、“BAREBOAT CHARTER”です。「裸用船」であり、「船舶賃貸借」です。”CHARTER PARTY“は「用船契約」とか、「用船契約書」と訳されますので、“PARTY”とは、「契約書」の事かなと思うかもしれません。
⚓
先ず、“CHARTER”の語源を探ってみましょう。“CHARTER”は、“CARD”「カード」や“CHART”「チャート・海図」と同じ語源で、元来は「一枚の分厚い紙」の事だったそうです。この「紙」が、「紙に書いたもの」の意味に変わり、“THE GREAT CHARTER“「大憲章」とか、“CHARTEREDCOMPANY”「特別免許会社」となります。「法律」とか、国王の政府の「認可」などは、私契約の「用船」とは全く異質なものだと感じますが、西欧人の感覚では、旧約聖書にも「神と契約を結ぶ」とあるぐらいですから、別に不思議は無いのかも知しれません。
⚓
それでは“PARTY”とはどういう意味なのでしょうか。日本語で、“PARTY”と言えば、「仲間」「党派」とか、「会合」のことですが、法律的には「当事者」「関係者」の意味御もります。これはすべて“PARTY”「分解する」から分かれた言葉で、「全体のうち分割された部分」のことです。「契約」とか「契約書」の意味は全くありません。
⚓
“CHARTER PARTY”は、本来は“CARD PARTED”、つまり「分解された紙」のことでありました。昔は、重要な契約をするときには、一枚の紙に同じ内容を二通り記載し、その紙を二分して、契約当事者がそれぞれ署名して保管したのだそうです。今の形式で言えば、契約書の正本二通を作成したのです。当時の社会での典型的な契約は「用船契約書」でありましたから、この“CHARTER PARTY”は次第に「用船契約書」の意味だけに使われることになりました。そして、“CHARTER PARTY”の、前半分の“CHARTER”だけが独立して「用船」という言葉になり、その解釈で我々を悩ませながら、我々の仕事の種になってくれているのです。