ENOSHIMA YACHT CLUB
NEWS & TOPICS
EYC通信 #42

救助されるために

― 航海中何が起こるかわかりません  板子一枚下は地獄です ―

      
プロローグ

 海に出るということは、自力で帰港するのが大前提です。しかし状況によっては、救助を求めざる得ない場合もありますので、その時に備えておかなければなりません。今回、前半は遭難予防について、後半は、「どのように捜索が行われているのか」をご紹介いたします。遭難した時「何度も爆音は聞こえるが、通り過ぎてそのまま行ってしまった。フレアーで合図したが、見つけてもらえなかった」このような場合には、希望が無くなり心が折れそうになるかもしれません。心が折れれば精神力も尽きてしまいます。どのように救助活動が行われているのかを知っていれば、知識を知恵に替えて心を支え頑張れるのではないでしょうか。

 小型船舶安全規定に基づいた装備を皆さんは持っています。しかし実際に試したことのある方は少ないと思います。(火工品類)信号紅炎、小型船舶用信号紅炎、小型船舶用自己点火灯、小型船舶用事故発煙信号、小型船舶用火せん、発煙浮き信号、について、どのように使うのかを調べてみました。実地施訓練を開催したいのですが、コロナ禍のため見合わせています。ネットを探したところ、コメットマリーンの映像がYOU TUBEに出ていましたので、参考にしてください。Comet Marine Distress Signals – YouTube
 https://www.youtube.com/results?search_query=Comet+Marine+Distress+Signals

1章 遭難しないために
1.出航前点検
 出航前点検を行うことで多くのトラブルを防げます。ほとんどのエンジントラブルやリギン・ハリヤード等のトラブルは、意外と徴候が出ているものです。例えば、エンジンからオイルが滲んでいる、リギン・シートがささくれている。ワイヤーをカシメているパイプが膨らんでいる・ヘアークラックがある、動索が滑らかでない等。擬装品にCRCをかけた時など、注意深く目視点検しましょう。エンジンの状態を確認する方法の1つに、高負荷(フルスロットル)で10分間程度走行し、オイル漏れや冷却水漏れ、ネジの緩みなど異常が無ければ、問題無いと思います。その為には、エンジンを常にきれいにしておくことです。エンジンに限らず、整理整頓、清掃をしておけば、ナットやボルト等外れているなど異常に気付くことが出来きます。

 先日、私たちの艇を高付加で10分ほど機走したところ、数滴オイル漏れがありました。エンジン下部を手探りしたところ、ヌルとしており、点検ミラーで確認してみるとオイルパイプの付け根から漏れておりましたので交換しました。これで、安心して出航できます。出航前点検は、はじめは面倒かもしれませんが習慣化してしまえば苦になりません。運行前点検表の様式例(パワーボート用ですが)を添付しますので、皆さんの艇に合わせてアレンジしてください。

 ・運行前点検表 
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1fXr8bSZRDEd6x4NQJiAtHQ4Ro4T51i4prKrwV6JN_n8/edit?usp=sharing
 ・保安庁の出航前チェック.xls (mlit.go.jp)もご覧ください。
https://www.kaiho.mlit.go.jp/08kanku/marineleisure/checkpoint/fchecklist.pdf

2.航海計画書の作成
 デイクルーズの場合は、出艇申告時におおよその航海区域も申告しますし、更にクラブ事務所へ、どのあたりを走るのか必ず連絡しましょう。それ以外の場合は、航海計画書を作成し海上保安庁湘南海上保安署とクラブに遅くとも出航までには提出しましょう。出航後、電話が通じる場合は、自宅など関係者へ航海中、定時連絡を取りましょう。こまめな安全連絡が重要です。もし、捜索活動が開始された時は、最終確認地点(DATUM データム)から捜索プログラムが始まりますので、いつの時点までは無事であったかが非常に重要です。海上保安庁には次の制度がありますのでご紹介いたします。

「日本の船位通報制度」(JASREP) JASREP (mlit.go.jp) 
 海難が発生すると海上保安庁では、海難を起こした船舶情報を調べると共に、付近を航行している船舶を検索し、救助要請を行います。また、24時間ごとに通報することになっている位置通報を送信しなかった船舶に対しては、その船舶の安全を確認するために電話などにより確認を行っています。確認が取れなかった場合には、万が一に備えて巡視船などを向かわせることとしています。参加するには航海計画・位置通報・変更通報・最終通報を送るだけで、費用は特にかかりません。
※日本の船位通報制度(ジャスレップ)参加の手引き manual[japanese]renew.pdf (mlit.go.jp)
https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/jasrep/manual.files/manual%5bjapanese%5drenew.pdf
※携帯電話、VHFが届かない場合は、別途通信手段が必要

 ・航海計画書(届)航程表は1または2をご使用ください。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1DiraCXkawguCD8ym0VcPSa3zeFPhDBF5WugHhfK4nr0/edit?usp=sharing

2章 遭難したら
1.遭難連絡
 外洋艇の遭難で多いのが、家族や関係者から到着予定日を過ぎたのに連絡がないので、というのがあります。航程のすべて(出発港~到着予定港)が捜索範囲となり広大な範囲を捜索することになります。また、1日ごとに天候や海流などの影響を加味してさらに範囲は拡大していきます。航海計画書が提出されており、定時連絡等でポジションを連絡してあれば、最終確認地点(以下DATUM データム)から捜索プログラムが開始できるので、捜索範囲はかなり限定されます。また、その艇の痕跡が捜索中に発見されれば、新たなDATUMから捜索プログラムが始まります。ベストはDATUMと遭難地点が合致していることです。そのような場合は、発見の可能性は非常に高くなります。当たり前のことですが、遭難地点の確定が非常に重要です。なお、無線での救助要請の場合は、症状(病人)、年齢、性別、身長、体重、向速、波高、天気、雲量、雲の種類、視程、なども送信してください。
    
2.捜索方法
 遭難連絡を受け海上保安庁が捜索を開始します。この際、重視されるのは航海計画書に記載した事項のほかに、陸上から捜索支援に当たるクルージング経験者の助言です。ヨットの場合はラムラインから偏位して帆走するとか、現場海域の天候や潮流や遭難艇の艇長の個性を勘案するとこのコースを採っている可能性が高い等、ヨット乗りの判断を具体的に伝えることです。通常の捜索方法は、ラムラインから、天候・潮流など過去のデーターを加味して風下側を重視するからです。できるだけ詳しい状況の把握が捜索を助けます。また、海上保安庁から、災害派遣要請があれば海上自衛隊も出動します。
※ヨットを捜索する場合、艇長の航路選定基準(癖、好み)も捜索条件に反映できます。

⑴空からの捜索方法 (世界共通)    (資料1捜索パターン図)
 

・回転翼機(ヘリコプター) 近場(伊豆7島程度)及びヘリコプター搭載船から
①サークル捜索                     
特定の円の中心に向かって各方向から何度も捜索 
②拡大方形捜索 
1レグの長さは状況に応じて決定 

*高度500~1500フィート 捜索対象物の色・サイズ天候により決定・レーダー等併用 

参考 ホバーリング中は通常飛行の15~20倍の燃料消費
   江の島灯台展望台からの眺めは海抜約100m

・固定翼機(飛行機)(海上自衛隊には飛行艇あり) 回転翼機の範囲外
①ラダーパターン  高度、長さは捜索範囲による 
②クローバーリーフ型 1枚のリーフ距離5~10マイル レーダーや赤外線を使用
ピンポイントを確認 ハンドボールサイズ位(海上自衛隊スペック)まではレーダーに映るので映ったものを一つ一つ確認して進む。
    
*高度1000~3000フィート 状況による

・共通事項 
太陽を背に 風上から(レーダーのため)うねりに平行(レーダーのため)
視覚による捜索時間 太陽光角度を鑑み9:00~15:00位が目視捜索時間
乗員 4~9名程度 機種及び捜索範囲などによる
※赤外線暗視装置等により夜間捜索も実施 光学機器による捜索 (赤外線暗視装置等)
 通信による捜索(PLB、VHF70ch、16CH、イーパブの受信等)

3.発見されるためには     (写真1 上空500フィート)湘南海上保安署提供

・迅速な遭難連絡  PLBの装着(7~8万(舵シープラザ参照))
イーパブの設置 (40~50万)
衛星通信
無線機(最近、電離層からの反射が思わしくないので留意すること)
・目立つ色 黄色、オレンジ、
・大きさ  艇は発見しやすい(水船でもつかまっていること、船から離れなければほぼ見つかる)、航跡、ライフラフトなど
・装 備  VHFなどの無線機
・反射鏡  相当遠くでも発見される(非常に有効)サバイバルミラー

・フラッシュライト 昼間でも空からよく見える。
・レーダーリフレクター(レーダーを反射する物)を揚げる 

★最重要事項
①発見されやすい物(艇体、シグナルフロート、シーマーカー等)と一緒にいること
※シーマーカーを発見したら、DATUMを更新
②有限の資源は、極力温存する(電波の発信、火工品、フラッシュライト等)
③反射鏡 晴れていれば、非常に有効。レーダーに映らない角度でも太陽の反射光は発見可能。
④極力、体力の消耗を避ける。
⑤絶対に遭難者同士、離れ離れにならない事
      

・遭難時の装備情報の重要性
ヨットを捜索する場合…装備品 水、食料、人数、性別、年齢、艇の大きさ及び色、タイプ、目的地、燃料、無線の有無
※情報により、水等必要な物資を直近に投下することも可能

・ライフジャケットで浮かんでいるときの注意   (資料2参照)
https://acrobat.adobe.com/link/review?uri=urn:aaid:scds:US:42e7567d-7ba6-3b82-805c-548c34515eb9
資料2にはないが有効な方法…水温が高く複数人の場合は、仰向けになり足を前の人の肩に乗せ(ライジャケの上に)夫々が同じようにして足を乗せて、円形に連なりしっかりと連結する。
※空から視認できる面積を増やすことにより発見されやすく、また大きく見えるためサメ除けにもなる。

3章 発見されたら
1.発見された場合
※発見されたのは救助の第一歩が始まったということ。(体力の温存が重要)
天候によっては、収容されるまで相当な時間がかかると覚悟しておきましょう。
・回転翼機(ヘリコプター)
  ピックアップ救助の際のクルーザーヨット側の事前準備(湘南海上保安署より)
  〇 救命胴衣着用
  〇 セフティーハーネス(命綱)の着装
  〇 航空機(ヘリ)視認時に発煙信号等による合図の実施
  〇 救助隊員が降下、吊上げ救助時はセール収納(固縛)の必要あり(ダウンウォシュで吹飛)
  〇 移動物(ブームなど)の固縛
  〇 可能なら船首を風上に向けておく
※回転翼機のダウンウォシュは自動車が浮くほどの強さ(10t程度の機体を空中に浮かせている風)
 
航空機が到着しますと、暫くの間、上空旋回して漂流状況などの確認がなされます。艇直上空でのホバーリングは、艇が死角に入り見えず、ダウンウォシュによりマスト(船体)が大きく動揺し危険が伴い困難なため、通常、救助隊員は、一旦、艇の風下側海面に降下した後、泳いで乗艇します。乗艇後、降下(吊上げ)目標を設定するため次の作業を行います。

  〇 スターンからロープを使って浮体(浮環)を流す
  〇 ロープの長さは、ダウンウォシュの影響が軽度な30から40メートル伸ばす
   
救助員の指示に従い艇から離れ、海中から吊り上げてもらう。(ダウンウォシュのため直接ヨットから収容はできないので)
※長めのロープや浮環、火工品といった安全備品は必ず搭載しておくこと

・固定翼機 旋回等を行い、レスキューブイ(ポジション発信ブイ)を投下し、その後飛び去り救助艇を誘導してくる。(数日かかることあり)
・飛行艇  天候によるが着水後 テンダーで確保し収容

4章 捜索の打ち切り
1. 捜索の打ち切り
大変残念ですが、生存可能性がなくなった時点で専従捜索は終了し、一般哨戒による捜索に移行します。
※このような場合も予想し、次の手段を考え、しぶとくしぶとく行きましょう。
(資料3参照)
https://acrobat.adobe.com/link/review?uri=urn:aaid:scds:US:d668557d-50bd-315e-b3f6-0f08ff2855f8

あとがき
 きっかけは、火工品の実地講習会の必要性を考えたことでした。しかし捜索され、発見してもらう為の道具の使い方も大切ですが、そこに至るまでの経緯や捜索の方法を知ることが、より生還の可能性が高いと思ったのが始まりです。関係機関に教えて頂き、また経験者の話を伺い、まだまだ不足している点があると思いますが、纏めてみました。また、ご指摘、ご提案などがございましたら、ご一報いただければ幸いです。
 なお、貴重なお時間をいただき、ご教授くださいました、海上保安庁第三管区海上保安本部湘南海上保安署様、海上自衛隊航空集団司令部様、ご協力いただきました多くの皆様、に厚く御礼申し上げます。 
                                     

以上
一般社団法人江の島ヨットクラブ
安全・ルール部会

NEWS & TOPICS一覧へ

JOIN US

江の島ヨットクラブにご興味のある方は、こちらまでお気軽にお問い合わせください。

江の島ヨットクラブ 〒251-0036 神奈川県藤沢市江の島1丁目12-2 Google Map

0466-22-0261

If you are interested in Enoshima Yacht Club, please feel free to contact us.

ENOSHIMA YACHT CLUB 1-12-2 Enoshima Fujisawa-shi Kanagawa Japan ZIP:251-0036

PHONE:+81(0)466-22-0261
FACSIMILE:+81(0)466-23-2378