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EYC通信 #44

随筆「海の言葉」㉝“TRAMP”

英語の“CARD”は、“CHARTER”と語源を同じくする言葉ですが、日常英語では、“PLAYING CARD”、つまり日本語の「トランプ」を指すことが多いのです。「トランプ」とは「切り札」“TRUMP”のことで、“PLAYING CARD”のゲーム中で、「優先権」を持つ特定の“CARD”を指すのですが、日本ではこれが、“PLAYING CARD”の一般名になってしましました。

海事用語の「トランプ」は、“TRAMP”「不定期船」です。元来は歩く「靴音」のことだったようで、「乞食をして歩く」という意味もあるぐらいですから、どうも我々の聖なる稼業としては冴えた名前ではありません。「不定期船」は、「定期船」よりもずっと古くから有ったはずですから、“TRAMP”も古い言葉かと思ったら、必ずしもそうではありません。18世紀までの帆船時代には、「定期船」は存在しなかったので、「定期船」に対応する「不定期船」という名称もまだなかったのです。

19世紀には、“REGULAR TRADER”とか“CONSTANT TRADER”と呼ばれる準定期船が生まれました。“PACKET”「郵便船」もこの類いです。蒸気船の時代に入り、画期的なサービスが開始され、“LINER”と呼ばれました。この“LINER”は、“LINE”(定期航路)に“-ER”を付けたものだと誤解されがちですが、本当は昔からの海事用語である“LINER”「戦列艦」、つまり“SHIP OF THE LINE”から出た言葉なのです。

この「定期船」“LINER”に対応するものとして「不定期船」は、最初の頃は“TRANSIENTS”(渡り鳥)とか“SEEKERS”(探究者)と呼ばれたのですが、1,880年代に至り、“TRAMP”の呼称が確立したようです。この“TRAMP”には、当然「しがない稼業」という気分が含まれていたのでしょうが、当時最新鋭の蒸気船を使用し“TRAMP STEAMER”が出現して、次第に軽蔑の意味は薄れて来ました。

“TRAMP”は、“LINER”とは違って、航路や荷物を定めずに、その時々に有利な契約を求めて航海する船で、“CHANCE VESSEL”とか、“GYPSY LIKE”と説明されておりました。“FREE LANCE VESSEL”との表現もあります。この“FREE LANCE”とは、「槍一筋で渡り歩く浪人」のことです。日本では、「フリーランサー」と言いますが、これは間違いで、「フリーランス」でなければなりません。同じように、“TRAMP”も、日本では「トランパー」と言いますが、「トランプ」でなければなりません。

20世紀の後半から、“LINER”は「コンテナー船」が主体となり、“LINER”以外の船も、特殊貨物用や長期契約用の専用船や撒積船が大半を占めるようになりました。「槍一筋」の“TRAMP”「不定期船」という名称も、いずれ過去の遺物となってしますことでしょう。

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