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EYC通信 #45

随筆「海の言葉」㉞「デマ」と「デス」

「デマ」と「デス」

日常会話で「デマ」と言えば、「事実に反する噂」つまり「中傷」とか「流言」のことです。これはギリシャ語を語源とする“DEMAGOGY”「デマゴギイ」という言葉を日本式に省略したものです。海事用語の「デマ」も日本式省略型で、正式には“DEMURRAG”「デマレージ」。もちろん「デマゴギイ」とは何の関係もありません。

英語の“DEMUR”「デイマー」という言葉があります。これは元来はラテン語系の言葉で、現在では法律用語として使われることが多いのですが、「異議を申し立てる」とか「抗弁する」ことです。“DEMURRAGE”は、この“DEMUR”から派生したもので、元来は「延引」とか「遅滞」を指したのですが、転じて「遅延に伴う割り増し料」のことになりました。駅留めの小包を一定期限までに引き取らないと、追加料金が課せられますが、これが“DEMURRAGE”です。

不定期船貨物の運送契約では、荷物の積み込みや揚げ荷は、荷主の責任と費用で行うのが通常ですが、あまりのんびりと荷役をされると、船の停泊が長引いて困ります。なるべく早く荷役をしてもらうために、予め荷役の責任量を、例えば一日当たり何千屯というように定めておき、これ以上かかったならば、遅れた日数に対して所定の“DEMURRAGE”「滞船料」を支払って貰うように取り決めることが多いのです。つまり、“DEMURRAGE”とは、荷役遅延に伴う割増運賃のようなものと言えます。“DAYS ON DEMURRAGE”とは、「滞船料を支払うべき日数」のことで、このような状態になることを、日本では「オンデマになる」と申しております。

荷役が遅れた場合の“DEMURRAGE”とは反対に、荷役が約束の期限よりも早く終了した場合には、船主は荷主に対し、「早出しのお礼金」を支払うのが普通です。これが日本流の略称では「デス」、正式には“DESPATCH MONEY”「早出料」と呼ばれるもので、金額は“DEMURRAGE”の半分とするのが通常です。例えば、“DEMURRAGE”が一日当たり$8,000ならば、“DESPATCH MONEY”は$4,000となります。

“DESPATCH”は、本来は「急ぐ」ことで、「手早く処理する」とか、手紙などを「急送する」意味にも使われます。食事を急いで食うことも“DESPATCH”ですし、日本の武士の「切腹」は、“A HAPPY DESPATCH”と呼ばれるそうです。“DESPATCH BOAT”は急送文書を積んだ便船でありますし、昔から軍艦や商船は常時“WITH UTMOST QUICK DESPATCH”で航行することが要求されておりました。

ところで、この“DESPATCH“なる語は、ふつうは“DISPATCH”と綴るのですが、なぜか現代の海事用語では専ら“DESPATCH”としております。英国海商法のバイブルとも言うべき「SCRUTTON」や「CARVER」の著書にも“DISPATCH”とあるのですが。更に面白いことには、辞書によれば、“DESPATCH”は「ディスパッチ」“DEMURRAGE”は「ディマリッジ」と発音することになっており、日本式の「デス」「デマ」は、少なくとも「ディマ」「ディス」と正すべきことになります。

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