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EYC通信 #47

随筆「海の言葉」㉟“ARRIVED SHIP”

“ARRIVED SHIP”

船が港に「入る」ことを、英語では色々の言い方をします。一番平易な表現は、“MAKE A PORT”です。“GET INTO A PORT”や、“PUT INTO A PORT”とも言います。港湾内に入るとか、入港手続きを完了するとかの場合には、“ARRIVE A PORT”が普通の言い方でしょう。もっと商業的な意味を持って港に「入港する」場合には、“ARRIVE IN PORT”とか“ARIVE AT PORT”が使われます。そもそもこの“ARRIVE”は、ラテン語の「舟で川岸に着く」という語から発した言葉だそうです。

“VOYAGE CHARTER PARTY”「航海用船契約書」(運送契約書)には、通常”LAYTIME”「荷役許容期間」の規定があり、本船が積地または揚地で“N/R”即ち“NOTICE OF READINESS”「荷役準備整頓通知」を“TENDER”「提出」した時点から“LAYTIME”が起算されます。本船は、常に一刻も早く“ N/R”を“TENDER”しようと努力するのですが、“TENDER”するには、まず本船が“ARRIVE”「到着」していること、つまり“ARRIVED SHIP”「着船」の状態になっていなければなりません。そして、しばしば問題になるのが、本船が「どこ迄」到着すれば“ARRIVED SHIP”になるかと言うことです。

用船契約によっては、本船が特定の”BERTH”に”ARRIVE”した時点をもって、”ARRIVED SHIP”とする契約もあります。これは俗に“BERTH CHARTER”と呼ばれます。この場合は、バース待ちの期間は”LAYTIME”に算入されないので、本船側にとっては大変に不利で、あまり一般的ではありません。

普通の用船契約では、本船が特定の“PORT”に“ARRIVE”したときに、“ARRIVED SHIP”となります。これは一般的に“PORT CHARTER”と呼ばれます。但し、この場合の“PORT”の範囲は、常識的または法律的な「港」とは異なることが多いのです。古い例で言えば、インドのカルカッタ港は、フグリー河の上流130浬に位置しており、港内が船混みになって入港できない船は、フグリー河口のサンドヘッド砂洲に錨泊して、入港の順番を待つのが習慣となっておりました。この場合、サンドヘッド錨地は“PORT”の範囲内でしょうか、範囲外でしょうか。

古典的な基準では、用船契約上の“PORT”は、法律的な「港」の範囲よりもむしろ狭く、その港の“COMMERCIAL AREA”「通常その水域で荷役が行われる場所」とされておりました。ところが近年は方々の港で激しい船混みが頻発し、また巨大船の増加などで、安全面の問題も深刻になってきたため、港内でのバース待ちが難しくなり、遥か港外の錨地や、場合によっては別の港で待機することが多くなってきました。この様な有様では古典的基準は実際的で無いので、逐次”PORT”の範囲を広げる傾向が強まりました。最近の国際基準では、用船契約上の“PORT”とは、「法規上の港域」とか、目的のバースの「遠近」とかは一切問わず、実際にバース待ちに使われる泊地のすべてを含むものと定義されております。入港できずにバース待ちする船も“ARRIVED SHIP”と認められるわけです。

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≪随筆「海の言葉」も第35話になりました。≫
この原稿は、物故された児玉登さんから私が頂いたもので、ようやく発表する機会を得ることが出来ました。事の始まりは下記の第一話のプロローグからです。御一読いただければ、幸いです
https://eyc.jp/news/eyc/142/

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