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EYC通信 #62

随筆「海の言葉」㊹“LOCK”

“LOCK”

 

「かぎをかける」ことを「ロックする」と言いますから、“LOCK” は
「鍵(かぎ)」だと思いがちです。

しかし考えてみると、「鍵(かぎ)」“KEY” であって、“LOCK” を開閉するための道具にすぎません。

“LOCK” は「錠(じょう)」又は「錠前(じょうまえ)」であって、「鍵(かぎ)」ではないのです。

とは言っても「錠」は今日では何となく古臭い感じで、日常語ではめったに使われません。「錠前を下ろす」「錠をかける」では無くて、「鍵をかける」のが普通の言い方です。

「鍵」“KEY”を使わない「数字錠」や、「かんぬき」の場合でも、やはり「鍵をかける」と言います。

「鍵穴」は “KEY HOLE” で、「鍵をつっこむ穴」なのですが、「錠」と「鍵」を混同すれば、「鍵にあいている穴」と思い込むかもしれません。

“LOCK” は、本来は「がっちりと組み合う(噛み合う)」 「囲う」ことを指しました。

車輪の輪止めは、“LOCK”であり、“LANDLOCKED WATERE”は、陸地や浅瀬に囲まれた水面です。

ゴルフのクラブを握る時に、右手の小指と左手の人差し指を組み合わせるのが、“INTERLOCK GLIP”です。

川や運河の水を仕切る「水門(閘門)」は、“LOCK” 又は “LOCK GATE“ であり、両端を「閘門」で仕切られた水面も“LOCK”「泊渠」)

と呼ばれます。パナマ運河はこの方式で、水面を上下させる「ロック式運河」の代表です。

“LOCKER”は、「鍵をかける場所」ですが、そもそもは、船の「物置」「格納庫」でした。

“CHAIN LOCKER”は「錨鎖庫」。

“PAINT LOCKER”は「ペンキ庫」。

“NOT A SHOT IN THE LOCKER”は「全弾を撃ち尽くした」ことで、この場合の“LOCKER”は「弾薬庫」です。

船上で死者が出ると、「水葬」に付しますが、これを“GONE TO THE DAVY JONES’S LOCKER”と言います。“ DAVY JONES”は「海の悪霊」の名前で、彼の“LOCKER”とは「海底」を指します。

「デッドロック」はもう日本語になりかけておりますが、誤用されることが多いので、注意を要します。

これは“DED LOCK”であって。元来は「二重の錠前」でした。一般には比喩的な意味で、ものごとが「どうにもならなくなる」「行き詰まる」

つまり「停滞した」状態を指します。

例えば“The negotiation has come to a deadlock”とあれば、

「交渉が暗礁に乗り上げた」と訳します。この訳は正しいのですが、この場合の”DEAD LOCK”を、“DEAD ROCK”つまり「暗礁」だと勘違いしている人が多いのです。

“DEAD ROCK”という言葉はありません。

「暗礁」は“SUNKEN ROCK”です。「暗礁に乗り上げる」は、”RUN

UPON THE ROCKS”とか、“STRIKE A ROCK”です。

くれぐれも「デッドロックに乗り上げた」とは言わないでください。

 

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