随筆「海の言葉」51“ロード”
「ロード」
『「ロードゲーム」は「ロード」がかかる』
プロ野球などで、本拠地(FRANCHISE)を離れて、地方巡業試合が重なると、旅疲れで苦労するのです。
この二つの「ロード」は、夫々違う言葉なのですが、いずれも海事用語から出ているのは興味深いものがあります。
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“RIDE”と言う動詞があります。
日常語としては、馬などに「乗る」ことですが、海では、“ride in a ship”「船に乗る」とか、“ride on the wave”「(船が)波を乗り切る」などと使われます。
“ride at anchor”は、船が「錨泊する」ことで、「停泊灯」は
“RIDING LIGHT”です。
“ROAD”は、この“RIDE”から出た海事用語で、そもそも船が
“ride at anchor”する場所、つまり「泊地」のことでした。
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時代が進むと、陸上の交通が発達し、“ROAD”も陸上の「道路」を指す言葉として使われるほうが多くなり、本来の“ROAD”である「泊地」の方は、“ROADSTEAD“と呼ばれるようになります。
船乗りは今でも、外海に面してうねりの入ってくるような泊地のことを“OPEN ROAD”と呼びますし、“HAMPTONROADS”のように、地名として残っているところもあります
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“ROAD GAME”「ロードゲーム」は、“ROAD SHOW“「ロードショー」と似たような表現で、本拠地(FRANCHISE)を離れた巡業先での試合のことであります。
“ROAD”は「道路」「街道」ですから、“ROAD GAME”も「道ばた」での試合と思われがちですが、語源的にはそうではありません。
巡業先の「泊まる場所」での試合のことです。
同じような言葉に“ROAD HOUSE”があります。
家は常に「道ばた」に建っているものなので、「道ばたの家」では意味を成しません。
この場合の“ROAD”も「道」では無く、「泊まる場所」で、「旅館」のことなのです。
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物理的、心理的な「負担」「重荷」を指す「ロード」は“LOAD”です。“LOAD”は“LADE”「積む」と類似した言葉で「(荷物を)積む」
「(鉄砲などに)弾をこめる」ことです。
“LOAD LINE”(“LOAD WATER LINE”)は「満載喫水線」。
“LOADING”は「積荷役」です。
「天然磁石」は“LOAD STONE”、「北極星」は“LOADSTAR”と言いますが、この場合の“LOAD”は、「積む」ではなく、「道筋」とか、「方向」を意味する別の言葉で、正しくは“LODE”と綴るのだそうです。
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船に食料や水などを積み込むときには、“LOAD”とは言いません。
普通には、“SUPPLY”、正式には“REPLENISH“を使います。
つまり、“LOAD”や“LADE”は、単純に「積み込む」ことだけではなく、もっと「動的」な意味を含む、つまり「荷物を積んで輸送する」ことなのだと考えてもよいようです。