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EYC通信 #70

随筆「海の言葉」52“HUSBAND”

“HUSBAND”

“MARU-SHIP”の俗称で知られる通り、大抵の日本商船には
「……丸」の名前が付けられております。この「丸」は、男の子の名前です。
外国の船の場合は「‥‥号」と呼びます。「号」は中国から渡来した称号で、普通は男の人がつけるものであり、女性が「号」を持つ例は少ないようです。日本人にとっては、船は「男性」なのでしょう。
西欧の船にも、男の名前や、勇ましい名称を付けることが少なくないのですが、仮に英雄豪傑の名前の船であっても、文法上は船は必ず「女性」“SHE”として扱われます。

船の所有者は“OWNER”ですが、日本では「船主」となります。なんだか「船」は「家来」のような感じがします。
一隻の船を何人かの「船主」が共同所有する「共有船」の場合、船主達を代表する「責任者」を選任する必要があります。日本の法律では、これを「船舶管理人」と呼んでおります。陸上の人間が船を作り、所有し、「資産」であるという感覚でありましょう。

この「船舶管理人」なる名称は、日本古来のものではありません。西欧の習慣、法律を日本に取り入れた際、英語の“SHIP’S HUSBAND”を翻訳したものなのです。
“SHIP”は“SHE”ですから、その面倒を見る人は“HUSBAND”であるとするのは、極めて自然な表現ですが、その背景には、「船」は単なる「資産」ではなく、立派な「人格」を備えた「生き物」であり、陸上の人間は、いわばその“HUSBAND”「夫」であるという感覚で、やはり本当の海洋民族的発想と申せましょう。

“HUSBAND”とは、“HOUSE HOLDER”又は“HOUSE BOND”のことであると言います。
“HOUSE HOLDER”とは、「一戸建ての自分の家に住む人」ですが、
“HOUSE BOND”の“BOND”には「農奴」「奴隷」の意味があり、
昔の農家の亭主達は、ひたすら農耕に追いまくられていたようです。
一般に英国人は「ケチ」だと言われますが、特に“HUSBAND”は「ケチ」のようです。動詞としての“HUSBAND”は、「節約する」「倹約する」の意味もあります。
“HUSBAND’S TEA”と言えば「(亭主がいれた)薄くて冷めたお茶」
だそうです。“GOOD HUSBAND”とは、女房に親切な夫では無く、家政や財政などのやりくりの上手な人を指します。
“SHIP’S HUSBAND”も、収入(運賃)をガッチリ取り立て、浪費(衣装やお化粧代)を押さえて、家計を健全に保つ「ケチ亭主」の役割だったようです。

近年では、寄港地での本船アテンドは殆ど“AGENT”「代理店」任せになっております。
定期用船の場合、用船者が運行に関する代理店を任命し、代理店料を支払うのですが、特殊な修繕とか、船員関係のアテンドが生じた場合、代理店によっては、これは“EXTRA”な“HUSBANDRY WORK”「船主業務」だからと言うことで、別途“HUSBANDING FEE”「船主代理店料」を船主側に請求してくることもあります。
現代風の「女性」でもやはり面倒が起これば、“HUSBAND-”の助けが必要なのでしょう。

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