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随筆「海の言葉」54″TENDER”

“TENDER”

学生時代には教わる機会がなかった単語で、仕事の上で何となく覚えて、当たり前に使っているものが数多くあります。
“TENDER”もその一つで、海事用語としても、また一般用語としてもよく使われますが、スペルや発音が同じでも、全く異なった三つの言葉がある点が面白いと言えます。

“She is so tender”と言えば、ラブソングなどによく使われる表現で、この“TENDER”は「やさしい」「親切な」「思いやりのある」と言う意味で、最も普通の使い方ですが、「若い」「弱い」「敏感な」「軟らかい」などの意味もあるようです。“TENDERLOIN STEAK”は牛や豚の軟らかい腰肉のステーキです。
しかし、船乗りが“She is so tender”と言うと、こんなロマンチックなことはではありません。
本船が“TOP HEAVY”「重心が高い状態」で、“STABILITY”「復元力」が不足していることを“TENDER”と呼ぶのです。「傾きやすい」とでも訳せばピッタリするかもしれません。

“TO TENDER THE NOTICE OF READINESS”は、トランプカーゴでの重要な現場事務の一つです。
積地や揚地で本船の荷役準備が完了したら、直ちに荷主対し「荷役準備完了通知」“NOTICE OF READINESS”(通称N/R )を出します。
この「出す」「提出する」と言う動詞が“to tender”なのですが、日本語では名詞みたいに扱って、「N/RをTENDERする」などと言います。                 

“TENDER”を名詞に使うと「入札」になります。
“GOVERNMENT TENDER”は、「政府入札」。
“OPEN TENDER”は、「公開入札」。
船舶保険で“TENDER CLAUSE”と言えば、海難事故の修理を入札にかける権利を保険会社が持つという特約ですが、最近では実際に行われることが少ないようです。
“LEGAL TENDER”は、「法定通貨」、つまり国内で合法的に流通する貨幣のことです。
このような“TENDER”は、「やさしい」とは全く違った系統の言葉で、
““to tend”(傾向がある、役立つ)とか、“TENDENCY”(傾向)と同じ系列だそうです。

“TENDER”は、“BOAT”のことでもあります。
“BOAT”にも、いろいろな大きさのがあるのですが、“TENDER”は、どちらかと言えば小型の雑用艇で、停泊中の本船にサービスする「足船」です。
この名前の由来は、前述の二つとは全く違ったもので、“ATTENDER”
「世話する人」の語源の“AT-”が消えたのだとされております。
このたぐいの言葉としては、
“WATER TENDER”:「水艀」のことではありません。“BOILER”担当の“ENGINEER”のことです。
“HATCH TENDER”:※ステベの“GANG”の一人で“HATCH MAN”
とも呼ばれます。      ※船内荷役請負業者
“LIGHTHOUSE TENDER”:灯台補給船
蛇足ですが、“BARTENDER”:バーテン

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