随筆「海の言葉」⑥“MATE”
“MATE”
「クラスメート」とか「チームメート」のように、“MATE”は「仲間」とか「友達」のことです。
但し、日本語の「仲間」は「同格の相棒」ですけれど、“MATE”の場合には、「格が下の相棒」のようです。
本船の“MATE”とは、ご承知の通り「チーフメイト」「セコンドメイト」など、航海士のことですが、これは本来は、“MASTER`S MATE”であったと言います。
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昔の帆船の職制を見ると“SURGEON”(船医)、“GUNNER”(砲手)、“TRUMPETTER”(ラッパ手)などにも、それぞれ“MATE”即ち「助手」が居たことが分かります。
人員合理化の為か、段々と「助手」の数も減って“MASTER`S MAITE
だけが、“MATE”の名前を独占するようになりました。
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船が小さかった時代には、“MASTER`S MATE”も一人だけで、言わば
「副船長」の立場でした。つまり、“MASTER”と同格の仲間では無く、「補佐」の役割であったのです。
船が大型になって、航海士の数もふえるにつれて、“CHIEF MATE”“SECOND MATE”、“THIRD MATE”などと、その階級も分かれてきたのですが、これも海軍の“LIEUTENANT”と軌を一つにしたものと言えましょう。
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“MATE”の語源は、“MESS”(食べ物)、“MEAT”(肉)と同じで、「食事を共にする人」から「仲間」の意味に転化したものと言われます。
現在の商船の食堂は“SALON”(職員食堂)と“CREW`S MESSROOM”(部員食堂)に分かれているものが多いのですが、ひと昔までは、職員食堂が“SALON”と“MESS ROOM”の二つに分けられており、船長、機関長や一等航海士なその高級士官は“SALON”で食事をしましたが、二等航海士や二等機関紙以下の職員は“MESS ROOM”を使ったので、「MESS ROOM士官」とか、単に“MESS ROOM”とも呼ばれました。
いわば「若い仲間」とでも言うことでしょうか。
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最近は、展示会や宴会などでの、若い女性の世話係を「コンパニオン」と呼びました。これは、そもそも“CON”(共に)と“PAN”(パン)を
組み合わせた言葉で、「パンを共にする間柄」即ち「仲間」のことでした。「会社」を意味する“COMPANY”も同様です。
この“COMPANION“や“COMPANY”は、元来は海軍用語で、冒険航海時代の「船乗り仲間」のことでした。
「マドロス」は英語では“MATELOT”ですが、もとをたどれば、オランダ語の「食事仲間」だったそうです。
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“MATE”は“MASTER`S MATE”ですから、“CAPTAIN”や、乗組員達が、“CHIEF MATE”などと呼ぶのは、極めて自然なのですが、陸上の人が本船の航海士を呼ぶ名前としては、あまりふさわしくありません。最近では専ら“MATE”では無く、“OFFICER“と呼ぶことが多いようです。
“OFFICER“の範囲も、考えてみるといろいろあります。極めて狭い意味では、「甲板部士官」であり、少し広げれば「職員」になり、場合によっては、船長や実習生も含むかもしれましれません。