随筆「海の言葉」⑪ “Weather”と”Lee”
“WEATHER”と“LEE”
“WEATHER FORECAST”(天気予報)、や“WEATHER CHART”
(天気図)のように、“WEATHER”は、普通は「天気」「天候」のこ
とです。
しかし、元来は“WEATHER”は“WIND”と同じように「風」のこ
とでもあり、特に「強風」や「暴風」の意味もあります。
“SEA AND WEATHER”は「海と天気」では無く、「浪と風」と訳さ
ねばなりません。
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エミリー・ブロンテの名作、「嵐ケ丘」の原題は、「ワザリング・ハイツ」
“WUTHERING HEIGHTS”ですが、この“WUTHERING”とは、
英国の北東部、ヨークシャー地方に強風が吹きすさぶ有様で、「風が吹
く」“WEATHERING の地方訛りであると言います。
“WEATHER COCK”とは「風見」のことです。「にわとり」の格好
をした板が、風に振れて回るもので、転じては、主義主張を時世の流れ
によって変える“OPPORTUNIST”「日和見主義者」の意味にも使われ
ます。
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海事用語としての“WEATHER”は、「風上」を意味するものが大部分
です。
“WEATHER SIDE”或いは“WEATHER BOARD”は「風上舷」。
“WEATHER SHORE”は「風上側の陸岸」を指します。
“WEATHERLY”は、昔のアメリカ杯の名艇ですが、この名前は、「風
上に向かって帆走する」ことです。
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「武士の風上にも置けぬ」という表現がありますが、帆船時代から「風
上」を占めることは「優位」であり「征服する」ことであります。
“to keep the weather of....”は「....対し優位に立つ」
「...を牛耳る」ことでありますし、また“to weather through
a crisis”は「障害物の風上をかわす」即ち「危機を乗り越える」こ
とを意味する表現です。
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このような“WEATHER”「風上」に対応する言葉が、“LEE”「風下」
です。
“LEE”は、通常「リー」と発音されますが、元来は古語の“LEW”
即ち「保護」「庇護」から発し、「風からの庇護」即ち「風下」となった
もので「ルー」というのが正しいし、実際に船乗りは「ルー」と発音す
るとの説もあります。
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“LEE SIDE ”は「風下舷」ですが、“LEE BOARD”は[風下舷]で
はありません。船が横風を受けると、風下側に横流れします。これを
“LEE WAY”と言いますが、この横流れを防ぐために、風下舷に下ろす
板(ヨットのセンターボードのようなもの)を、“LEE BOARD”
と呼んでおります。
“UNDER THE LEE OF THE GOD“は、「神の御庇護のもとに」
安心な状態を指しますが“ON A LEE SHORE”となれば、「風下
に陸岸を控えた」危険な状態ということになります。
この危険な乗艇を乗り越えることが」、“to weather through a
crisis”であるわけです。