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EYC通信 #19

随筆「海の言葉」⑯ “DOCK”

“DOCK”

我々は普段「造船所」のことを「ドック」と呼びますが、これは正しくありません。
英語で「造船所」は“DOCKYARD”又は“SHIPYARD”であって、これを単に「ドック」と呼ぶのは日本特有の省略型です。
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“DOCKYARD”の“YARD”には、本来語源の異なる三つの意味があります。
第一は、距離の単位で「3 feet 」即ち約90cm。ゴルフコースの長さで、よくご存じでしょう。
第二は、帆船の帆桁。帆を吊るための横棒です。この“YARD”の上に乗組員が立ち並ぶのが
“MAN THE YARD”「登桁礼」です。
第三は、原意は「囲った地面」で、「仕事場」を指します。“STOCK YARD”は「貯蔵所」、“STATIO YARD”は「鉄道駅構内」です。
従って、“DOCKYARD”は、元来が「ドックの仕事場」となります。
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大概の造船所には、必ず“DOCK”があります。
この場合の“DOCK”とは「船渠」のことで、厳密には“DRY DOCK”と呼ぶべきものです。
ご承知のとおり、海から堀込んだ長方形の「堀割り」で、三方はコンクリートの壁に囲まれ、海につながる面には水門があります。
船をこの「堀割り」の中に入れて、水門を閉じ、内部の水を排出すれば、船は「堀割り」の底に鎮座します。このようにして船底の掃除や修理を行います。
因みに“DOCK”なる語の原意は「船が泥の上に擱座してできた溝状の跡」であると言われております。
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船は大きく重たいので、船底の掃除は大仕事です。“DRY DOCK”が普及するまでは、潮の干潮を利用して砂浜に擱座させ、船を傾けて船底を掃除しました。これを“CAREENING”「傾船」と呼びます。
掃除は“ GRAVING ”「焼き掃除」でありましたので “DRY DOCK”は別名”GRAVING DOCK”とも呼びます。
“GRAVE”には、「墓場」の意味もありますけれど、この場合は決して「船の墓場」ではありません。
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ところで、実際に英語で“DOCK”という場合は、“DRY DOCK”よりも「港」を指すことが多いようです。
「港」としての“DOCK”は「人口の船だまり」即ち「岸壁に囲まれた水面」のことです。
英国などで、潮の干満差が大きい地方では「船だまり」即ち“DOCK”
の入り口には水門を作り、干潮時にはこれを閉じて“DOCK”内の水面を一定に保つ仕組みになっております。これらは特に“WET DOCK”とも呼ばれます。
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米国では、「埠頭」や「岸壁」のことを“DOCK”と言います。
“DOCK MAN”は「造船所工員」と「港湾労働者」の二つの意味があり、“DOCK RECEIPT”は「造船所の受領書」ではなく「倉庫証券」です。病院に短期間入って、健康診断を受けることを「人間ドック」と申しますが、船乗りの俗語としては、“IN DOCK”はやはり「入院する」ことで、さらに“IN DRY DOCK”と言えば「失業中」を意味するそうです。

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